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コーヒーとリモコン
朝のキッチンに、コーヒーの匂いがゆっくりと広がる。 まだ完全には目覚めていない頭に、その苦みは少しだけ強い。 マグカップを両手で包みながら、僕はリビングのソファに腰を下ろした。 テーブルの上には、リモコンが置いてある。 いつもそこにあるはずのものだ。 昨日も、一昨日も、その前の日も。 なのに、改めて見ると、ずいぶんと無表情な道具だと思う。 テレビをつける。 朝の情報番組が、にぎやかに始まる。 天気、占い、ニュース。 どれも急いでいて、少しだけ大げさだ。 コーヒーを一口飲む。 まだ熱くて、舌の奥がじんわりする。 その間に、リモコンで音量を少し下げる。 このくらいが、ちょうどいい。 特別なことは、何も起きない。 今日の予定も、いつも通りだ。 仕事があって、帰って、また夜になる。 それだけだ。 それでも、 コーヒーが冷めていく速さと、 番組が切り替わるタイミングと、 部屋に差し込む朝の光が、 不思議ときれいに噛み合っている。 ふと、リモコンを裏返す。 電池のふたに、小さな傷がついていた。 いつの間についたものか、思い出せない。 きっと、忙しい日々のどこ
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