コーヒーとリモコン
朝のキッチンに、コーヒーの匂いがゆっくりと広がる。
まだ完全には目覚めていない頭に、その苦みは少しだけ強い。
マグカップを両手で包みながら、僕はリビングのソファに腰を下ろした。
テーブルの上には、リモコンが置いてある。
いつもそこにあるはずのものだ。
昨日も、一昨日も、その前の日も。
なのに、改めて見ると、ずいぶんと無表情な道具だと思う。
テレビをつける。
朝の情報番組が、にぎやかに始まる。
天気、占い、ニュース。
どれも急いでいて、少しだけ大げさだ。
コーヒーを一口飲む。
まだ熱くて、舌の奥がじんわりする。
その間に、リモコンで音量を少し下げる。
このくらいが、ちょうどいい。
特別なことは、何も起きない。
今日の予定も、いつも通りだ。
仕事があって、帰って、また夜になる。
それだけだ。
それでも、
コーヒーが冷めていく速さと、
番組が切り替わるタイミングと、
部屋に差し込む朝の光が、
不思議ときれいに噛み合っている。
ふと、リモコンを裏返す。
電池のふたに、小さな傷がついていた。
いつの間についたものか、思い出せない。
きっと、忙しい日々のどこかで、
雑に扱ったのだろう。
でも、
それでもリモコンは、今日もちゃんと動く。
文句も言わず、
押された通りに反応してくれる。
コーヒーも同じだ。
高級じゃなくても、
お気に入りの豆じゃなくても、
朝に一杯あるだけで、一日が少しだけ整う。
僕らは、
大きな出来事や、
派手な幸せを探しがちだけれど、
実際には、
こういう小さな道具や習慣に支えられて生きている。
リモコンがなければ、
立ち上がる回数は増えるだろう。
コーヒーがなければ、
朝はもう少し無愛想になるだろう。
どちらも、
なくても生きていける。
でも、あると、ちょっとだけ楽になる。
その「ちょっと」が、
毎日を続けるには、案外大事なのだ。
空になったマグカップを、
シンクに置く。
テレビを消すために、
リモコンをひとつ押す。
カチ、という音がして、
部屋が静かになる。
今日もまた、
何気ないものに助けられながら、
一日が始まっていく。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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コメントいただけると嬉しいです。
では、また次のブログでお会いしましょう(^^)ノシ



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