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心が一人でなければ
夜の帰り道、街は思ったより静かだった。 人はたくさんいるのに、声だけが遠い。 スマートフォンの画面には、連絡先がずらりと並んでいる。 それでも、今この瞬間に「会いたい」と思える名前は、驚くほど少なかった。 若いころは、友達が多いことが誇らしかった。 予定が埋まっている週末、鳴り続ける通知。 孤独とは無縁だと信じていたし、そう見える自分でいたかった。 けれど、人に囲まれているはずなのに、心だけが取り残される夜が増えていった。 誰に話しても、話した気がしない。 笑顔を向けても、奥の部分は触れられない。 そんな会話を重ねるたびに、心は少しずつ、一人になる。 ある日、久しぶりに古い友人と会った。 特別な話はしなかった。 仕事の愚痴も、未来の夢も、深く掘り下げなかった。 それでも、沈黙が苦しくなかった。 同じ景色を見て、同じタイミングで息を吐けることが、こんなにも楽だったのかと驚いた。 その帰り道、ふと思った。 心が一人でなければ、それでいい。 周りに誰がいるかより、心の隣に誰が座っているかのほうが大事なのだと。 友達が十人いなくてもいい。 知り合いが百人
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