返事のない喫茶店
- iCR
- 1 日前
- 読了時間: 2分
近所に新しい喫茶店が出来た。
その喫茶店は少し変わっている。
いつ行ってもひとけがない。
店の名前は出ていない。
看板には、色あせた木札に小さく「OPEN」とだけ書かれている。
中に入ると、ベルが鳴る。
しかし、いくら待っても誰も出てこない。
カウンターの奥には、使われた形跡のないコーヒーメーカー。
棚には整然と並んだ白いカップ。
なのに、不思議と「営業していない」という気配はなかった。
それどころか、誰かに見られているような感覚があった。
試しに、カウンターの席に座ってみる。
すると、目の前に一枚のメモが置かれているのに気づいた。
――「ご注文は、心の中でどうぞ」
冗談だろうと思いながら、私は心の中で呟いた。
「……ホットコーヒーを1つ」
数分後。
瞬きをしたその一瞬にして、湯気の立つカップが目の前に置かれていた。
誰もいない。
音もしない。
それなのに、確かに“届いている”。
その日から、私は時々この喫茶店を訪れるようになった。
仕事でうまくいかなかった日。
理由もなく気持ちが沈んだ日。
誰にも話せない思いを抱えた日。
店はいつも静かで、
話しかけても、返事は返ってこない。
けれど、不思議なことに——
ここを出る頃には、心の中が少し整理されているのだ。
ある日、ふとカウンターの奥の壁に、小さな文字が彫られているのを見つけた。
「ここは、言葉にならなかった声が休む場所」
その下には、無数の名前のようなものが刻まれていた。
消えかけているものもあれば、最近刻まれたばかりのものもある。
その中に、私は自分の名前を見つけた。
いつ、刻まれたのかはわからない。
けれどその瞬間、はっきりと理解した。
この喫茶店は、
誰かが話を“聞いてくれなかった”場所ではなく、
誰かが“言えなかった想い”を、黙って受け取る場所なのだと。
店を出ると、外は夕暮れだった。
振り返ると、そこにはもう喫茶店はなかった。
けれど不思議と、寂しさはなかった。
言葉にならなかった思いは、
確かに、どこかで受け取られたのだから。
そして今日もまた、
どこかの街角で、
返事のない喫茶店は静かに扉を開けている。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブログを読んで疑問に思ったことや感想などありましたら
コメントいただけると嬉しいです。
では、また次のブログでお会いしましょう(^^)ノシ



コメント