手放してごらん。
- 20 時間前
- 読了時間: 2分
誰かが言っていた。
「人はスマホを使う対価として、感情を支払っているんだよ」と。
その言葉を聞いたとき、
僕は笑って受け流した。
画面の向こうで起きていることに、
そこまで重たい意味があるとは思えなかったからだ。
指先ひとつで、
誰かの意見に触れ、
誰かの怒りに巻き込まれ、
誰かの成功を覗き見る。
それは便利で、刺激的で、退屈しない。
気づけば、夜はいつも短くなっていた。
ゲームの中では、
仲間がいて、役割があって、
自分の居場所がはっきりしていた。
失敗してもやり直せるし、
努力は数値で返ってくる。
現実より、ずっと公平だった。
現実の世界は、
曖昧で、遅くて、反応が薄い。
目を合わせるタイミングを誤ると、
それだけで空気が歪む。
だから僕は、
画面の中へ逃げ込むようになった。
ある日、久しぶりに実家へ帰った。
テーブルの上には、湯気の立つ味噌汁。
母は何も聞かず、ただ箸を並べていた。
「最近、どう?」
その一言に、
返す言葉が見つからなかった。
近況は、山ほどあるはずなのに、どれも説明しづらい。
画面の中の出来事は、この湯気の前では、急に色を失った。
食後、
何気なくスマートフォンを手に取ると、
電源が切れていた。
充電器は、別の部屋にあるらしい。
仕方なく、
縁側に座る。
風が、
ゆっくりと頬を撫でた。
遠くで犬が吠え、
夕焼けが、静かに沈んでいく。
そのとき、胸の奥に、何かが戻ってくる感覚があった。
退屈。
間。
沈黙。
どれも、
ネットの中では排除されるものだ。
でも、
人と生きるには、必要なものだった。
画面を見ている間、
僕はたくさんの情報を得ていた。
けれど、
誰かの体温を、
風の匂いを、
声の揺らぎを、
確かに手放していた。
誰かと向き合うことは、
効率が悪い。
思い通りにならない。
でもだからこそ、感情が生まれる。
手放してごらん。
画面の向こうに置いてきたものを。
全てを捨てる必要はない。
ただ、両手が塞がっていたら、
誰かの手は握れない。
その夜、
僕はスマートフォンを伏せて眠った。
久しぶりに、
夢を見なかった。
それでも、
朝はちゃんと、
人のいる世界に続いていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
では、また次のブログでお会いしましょう(^^)ノシ



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