ドリームボックス
- iCR

- 2 日前
- 読了時間: 4分
―――ドリームボックス。
僕が今いる、この箱の名前だ。
夢がたくさん詰まっている場所・・・らしい。
でも、ここに来てから、
楽しい夢を見たことは一度もない。
僕はある日、
大好きなご主人様に連れられて、
いつもとは違うところへやって来た。
それは、
機嫌がいい日に連れて行ってもらえる公園でもなく、
おやつの匂いが溢れているお店でもなく、
注射が痛い病院でもなかった。
初めての場所だった。
床は冷たく、
空気は知らない匂いでいっぱいで、
胸の奥がきゅっと縮んだ。
それでも僕は、
ご主人様の足元で背筋を伸ばし、
「いい子だね」と言われる姿勢を忘れなかった。
だって、
いい子にしていれば、
嫌なことは起きないと、
そう教えてもらってきたから。
ご主人様は、そこにいた人と少し話をした。
言葉はよく分からなかったけれど、
声の調子がいつもと違っていた。
そして、
不細工な笑顔と僕を残して、
どこかへ行ってしまった。
最初は、
すぐ戻ってくると思っていた。
怒られなかったから、
少しだけ安心もしていた。
でも、
いつまで経っても、
ご主人様は戻ってこなかった。
すると、
さっき話していた人が、別の誰かに言った。
「これを、ドリームボックスへ送って」
……これ?
僕は「これ」じゃない!
名前がある。
呼ばれると、しっぽが勝手に振れてしまう立派な名前が!
郵便物みたいに扱われたことには、
少しムッとしたけれど、
きっと後で、ご主人様からご褒美のおやつをもらえる。
だから、
その時は、まだ大丈夫だった。
それから、
どれくらい時間が経ったんだろう。
僕は大きな車に乗せられた。
金属の音。
知らない鳴き声。
震えている身体が、隣にたくさんある。
一緒に乗っている他の子たちが、必死に鳴いていた。
それを聞いているうちに、
僕の胸も、
少しずつ、不安でいっぱいになっていった。
どれだけ鳴いても、
僕らの声は、ご主人様には届かない。
ドリームボックス。
「最期くらいは楽に」
という意味で名づけられた、と後で知った。
だから、
ここには夢なんて、
ひとかけらも詰まっていない。
それどころか、
ここから出ることを夢に見ながら、
僕たちは、運命の七日間を過ごすことになる。
『僕、何か悪いことをした?』
そう聞く相手は、
もう、いない。
誰にも聞けず、
自分では出ることもできず、
命の時間だけが、
静かに、無情に、確実に、削れていく。
箱の中で、
僕は、
ご主人様との、
良い思い出だけを、
必死に思い出していた。
一緒に歩いた散歩道。
頭を撫でてくれた大きな手。
眠る前の、優しいあの声。
思い出すと苦しくなるけど、
思い出せなくなるよりは、マシだと思った。
七日目の朝。
扉の向こうが、
やけに騒がしかった。
知らない人の声。
でも、
どこか、優しい匂い。
扉が開いた。
光が差し込んで、
目が眩んだ。
「この子……まだ、目が生きてる!」
そう言った声が、
僕を見つめていた。
震える身体を抱き上げられた瞬間、
僕は、
久しぶりに、人の体温を感じた。
ただの温かさじゃない。
希望を思い出せる温度だ。
その腕は、
乱暴じゃなかった。
優しくて、
あたたかくて、
でも少しだけ、切なくて
僕は泣いた。
それから、
僕は別の場所へ連れて行かれた。
新しい家。
新しい匂い。
新しい名前。
最初は、
信じるのが怖かった。
24時間ずうっと、
顔色を伺い続けていた。
一度でも機嫌を損ねたら、
また夢のない箱にもどされちゃう!
って本気で思っていた。
でも、
毎日ごはんをもらえて、
毎日声をかけてもらえて、
毎日、僕に会いに帰ってきてくれた。
ある夜、
これまでとは違う手で頭を撫でられながら、
僕は気づいた。
ああ、
ここは箱じゃない。
夢を、
閉じ込める場所じゃない。
夢が、
また始まる場所なんだ。
ドリームボックスは、
僕の終わりじゃなかった。
生き延びたことは、
奇跡じゃない。
誰かが、
手を伸ばしてくれたからだ。
今日も僕は、
しっぽを一生懸命に振って生きている。
夢は、
ちゃんと今、
ここにある。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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コメントいただけると嬉しいです。
では、また次のブログでお会いしましょう(^^)ノシ



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