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街角のアスター
街角に、ほんの一間ほどの小さな花屋がある。 ガラス越しに並ぶ花は派手ではないが、どれも丁寧に水を含み、朝の光を静かに受け止めている。 その店の名前は特に洒落てはいない。ただ、「アスターの花屋」とだけ書かれている。 店主のアスターは、33歳。 お店を開いてからもう10年になる。 花に囲まれた生活は長いが、家族と呼べる存在は、この街にいない。 六歳のころ、両親は離婚した。 原因は母の浮気癖だったが、人を責められない父は自ら家を出ていった。 その後ほどなくして母も蒸発した。 母の知り合いの家に引き取られて育った。 父はその後も全く戻らなかった。 声も、背中も、いつしか思い出せなくなり、記憶に残ったのは、花の名前を嬉しそうに教えてくれた横顔だけだった。 だからアスターは、この店を開いた。 父が好きだった花の香りが、いつか彼を導いてくれるかもしれないと信じて。 ある日、ひとりの男性が店を訪れた。 無口で、控えめで、黒い帽子を深く被っていた。 決して長居はしない。 それなのに、なぜか胸の奥に、小さく揺れるものがあった。 その日、アスターが差し出したのはアイリ


心が一人でなければ
夜の帰り道、街は思ったより静かだった。 人はたくさんいるのに、声だけが遠い。 スマートフォンの画面には、連絡先がずらりと並んでいる。 それでも、今この瞬間に「会いたい」と思える名前は、驚くほど少なかった。 若いころは、友達が多いことが誇らしかった。 予定が埋まっている週末、鳴り続ける通知。 孤独とは無縁だと信じていたし、そう見える自分でいたかった。 けれど、人に囲まれているはずなのに、心だけが取り残される夜が増えていった。 誰に話しても、話した気がしない。 笑顔を向けても、奥の部分は触れられない。 そんな会話を重ねるたびに、心は少しずつ、一人になる。 ある日、久しぶりに古い友人と会った。 特別な話はしなかった。 仕事の愚痴も、未来の夢も、深く掘り下げなかった。 それでも、沈黙が苦しくなかった。 同じ景色を見て、同じタイミングで息を吐けることが、こんなにも楽だったのかと驚いた。 その帰り道、ふと思った。 心が一人でなければ、それでいい。 周りに誰がいるかより、心の隣に誰が座っているかのほうが大事なのだと。 友達が十人いなくてもいい。 知り合いが百人


鬼ごっことかくれんぼ
夕方の公園には、いつも決まった時間になると影が長く伸びる。 ブランコの鎖はきしみ、砂場は誰も触れないまま、昼の熱をまだ抱えている。 子どものころ、僕らはそこで鬼ごっことかくれんぼをした。 ルールは曖昧で、開始の合図も適当だったけれど、走る理由と隠れる理由だけは、はっきりしていた。 鬼ごっこは、捕まえられたくなくて必死に逃げる遊びだ。 息が切れても、足がもつれても、後ろから迫る足音が怖くて、ただ前へ前へと走る。 あのときの僕らは、「追われること」が負けだと思っていた。 一方、かくれんぼは違う。 息を潜め、物陰に身を縮め、見つからないようにじっと待つ。 物音ひとつ立てないように、心臓の音さえ邪魔に感じながら。 それでも不思議と、怖さよりも、誰かが探してくれている安心感のほうが勝っていた。 ――今思えば、あれは人生の予行演習だったのかもしれない。 大人になった僕らは、いつの間にかずっと鬼ごっこをしている。 仕事に追われ、評価に追われ、時間に追われる。 立ち止まれば置いていかれる気がして、逃げることをやめられない。 誰が鬼なのかも分からないまま、ただ走り


ドリームボックス
―――ドリームボックス。 僕が今いる、この箱の名前だ。 夢がたくさん詰まっている場所・・・らしい。 でも、ここに来てから、 楽しい夢を見たことは一度もない。 僕はある日、 大好きなご主人様に連れられて、 いつもとは違うところへやって来た。 それは、 機嫌がいい日に連れて行ってもらえる公園でもなく、 おやつの匂いが溢れているお店でもなく、 注射が痛い病院でもなかった。 初めての場所だった。 床は冷たく、 空気は知らない匂いでいっぱいで、 胸の奥がきゅっと縮んだ。 それでも僕は、 ご主人様の足元で背筋を伸ばし、 「いい子だね」と言われる姿勢を忘れなかった。 だって、 いい子にしていれば、 嫌なことは起きないと、 そう教えてもらってきたから。 ご主人様は、そこにいた人と少し話をした。 言葉はよく分からなかったけれど、 声の調子がいつもと違っていた。 そして、 不細工な笑顔と僕を残して、 どこかへ行ってしまった。 最初は、 すぐ戻ってくると思っていた。 怒られなかったから、 少しだけ安心もしていた。 でも、 いつまで経っても、 ご主人様は戻ってこなかった


劣等生の優越感
友達より成績が劣っている。 同僚より仕事が遅い。 兄弟より出来が悪い。 姉妹よりも気が遣えない。 しかし、そのことを悔む必要は全くない。 なぜなら―― 劣っている者にしか見えない景色が、この世には確かに存在するからだ。 成績が良い人間は、正解へ最短距離で辿り着く。 仕事が早い人間は、迷わず要点を掴む。 出来の良い兄弟や姉妹は、自然と期待され、自然と応える。 それはそれで立派だし、誇るべき才能だろう。 一方で、劣等生はどうか。 間違える。 遠回りをする。 何度も同じところで立ち止まり、「自分はなぜできないのか」を考え続ける。 この“考え続ける時間”こそが、劣等生の財産だ。 劣等生は、最初から世界を信じていない。 「自分はきっと正しい」などという傲慢さを持たない。 だからこそ、疑い、観察し、拾い上げる。 優等生が見落とす小さな違和感。 出来る人が無意識に切り捨てる感情。 「それ、誰のための正解なんだろう?」という問い。 劣等生は、それを拾ってしまう。 ある日、職場でトラブルが起きた。 誰もが「原因はここだ」と即座に断定し、修正案を出す。...


返事のない喫茶店
近所に新しい喫茶店が出来た。 その喫茶店は少し変わっている。 いつ行ってもひとけがない。 店の名前は出ていない。 看板には、色あせた木札に小さく「OPEN」とだけ書かれている。 中に入ると、ベルが鳴る。 しかし、いくら待っても誰も出てこない。 カウンターの奥には、使われた形跡のないコーヒーメーカー。 棚には整然と並んだ白いカップ。 なのに、不思議と「営業していない」という気配はなかった。 それどころか、誰かに見られているような感覚があった。 試しに、カウンターの席に座ってみる。 すると、目の前に一枚のメモが置かれているのに気づいた。 ――「ご注文は、心の中でどうぞ」 冗談だろうと思いながら、私は心の中で呟いた。 「……ホットコーヒーを1つ」 数分後。 瞬きをしたその一瞬にして、湯気の立つカップが目の前に置かれていた。 誰もいない。 音もしない。 それなのに、確かに“届いている”。 その日から、私は時々この喫茶店を訪れるようになった。 仕事でうまくいかなかった日。 理由もなく気持ちが沈んだ日。 誰にも話せない思いを抱えた日。 店はいつも静かで、 話


日替わり人生
ご飯・味噌汁・漬物は、毎日ほとんど同じ。 でも、おかずだけは違う。 焼き魚の日もあれば、唐揚げの日もある。 たまに「今日は当たりだ」と思う日もあれば、 「え、これ?」と箸が止まる日もある。 それでも人は、文句を言いながら箸を持つ。 だって、食べなければ一日が始まらないから。 人生も、案外それと似ている。 朝起きて、仕事に行って、帰ってきて、眠る。 やっていることは昨日とほとんど同じなのに、 なぜか日によって重さが違う。 上司の一言で疲れ切る日もあれば、 同僚の何気ない一言で救われる日もある。 「毎日同じでつまらない」と思うこともあるけれど、 もし毎日が完全に同じだったら、 私たちはたぶん“今日”を覚えていられない。 たとえば―― 今日のおかずが、唐揚げだったとする。 特別じゃない。豪華でもない。 でも、昨日が焼き魚だったから「今日は当たりだな」と思える。 逆に、昨日がごちそうだったら、 今日は少し物足りなく感じるかもしれない。 それでも、どちらも「食べた」という事実は残る。 人生も同じだ。 特別な一日ばかりを求めなくていい。 「まあまあの日」も


いい🍓の日
こんにちは、iCRです! 先日少しだけ積もった雪もすっかり溶け、寒さこそ感じますが、運転や散歩がそこまで億劫にならない穏やかな日が続いていますね(*‘ω‘ *){ホンマ、ソレナ 個人的な話なのですが、去年の終わりころから、グルテンをあまり摂らない生活を送っているんです! その影響が大きく、以前はちょくちょくコンビニにスイーツを買いに行っていたのですが、スイーツって大半が小麦粉が使われていて、、、『目に毒だー!!』と思い、行く回数がかなり減りました(毒 з 毒){グルテンノ、バカヤロー しかし、この間用事があってコンビニに寄ったんです。 そしたら、 「いちごフェア🍓」 を開催しておりまして・・・ スイーツ は勿論なのですが、 パン 、 アイス 、 ドリンク 、 お菓子 等々、 それはそれはもう、外観含め店内全体が いちご づくめで 赤一色 でしたね。 この期間中にコンビニ行ったら、 首里城 🏯 に来ちゃったと勘違いすると思います!!(・ω・){バカジャン ということで、 本日1月15日(いい苺の日)にちなんで、今日は苺についてのブログで


情報の触れ方
こんにちは、iCRです! こんな仕事をしておきながら、全然発信のためにはSNSを活用していない私です(゚Д゚;){モッタイナイ 一方、気になる情報や必要な情報を拾う(検索エンジン替わり)ために、かなりSNSを駆使してはいまして、「見る専(=流れてくるポストやタイムラインを見る専用に使っている人)」ならぬ「拾う専(=そのSNSに漂っている情報を拾う専用に使っている人)」だと自負しております!!! なので、SNSをそこそこ触っているにも関わらず、今流行りの曲やインフルエンサー、バズリ動画等にはかなり疎いのです(´_ゝ`){アー、ソレネ!シランケド しかし、今の自分のSNSの使い方はかなり自分には合っていると感じていて、 ストレスが溜まりにくい 活用法になっているように思えます! SNSは今や、 世界中の情報や知恵の宝庫 でありながら、同時に 罵詈雑言やデマの温床 にもなっています。 SNSはそのシステム上、短時間で多くの人に見られている内容は、みんなの目に留まりやすいように表示されるようなアルゴリズムがなされているので、人々が反応しやすいポストや記


最果ての木
――私は、ここに立っている。 村の中心に、一本だけ根を張り続けている木だ。 人々は私のことを「憧れの木」と呼ぶ。 それもそのはずだろう。 私は芽吹いてからというもの、驚くほどの速さで育った。 幹は太くなり、枝は空をつかむように伸び、 実はどれも瑞々しく、大きく、重たく実った。 風が吹くたび、村のあちこちから声が届いた。 「すごいね」「立派だね」「あんなふうになれたら」 その声は、私の年輪の奥に、静かに染み込んでいった。 だが、すべての視線が温かかったわけではない。 私の成長はあまりにも早すぎた。 昨日まで細かった幹が、今日にはもう別の木のように見える。 枝ぶりが変わり、影の形も違う。 人は、理解できない変化を恐れる。 いつしか私は「憧れ」ではなく 「異質なもの」として見られるようになった。 ――欺きの木。 そんな名で、囁かれていることも知っていた。 そして、ある時からだ。 私の中を流れていた力が、急に弱まった。 葉は艶を失い、実は落ち、幹の奥が軋むように痛んだ。 人々は心配そうに私を見上げた。 だが、誰も気づかなかった。 私が、初めて“立ち止まっ
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